このお話は、80年ほど前、日本が中国と戦争をしていた頃のお話です――。動画投稿サイト、ユーチューブにこんな朗読から始まる物語が流れている。絵本「ロボットになったあきおくん」。第2次世界大戦のさなか、軍国教育を受けた男性の少年期の体験に基づく物語で、平和への願いが込められている。
主人公は、あきお君。自然の中で遊ぶのが好きなごく普通の少年だった。それが、国民学校と名を変えた学校で軍国教育を受けていくうちに学校が嫌になり、そして体がロボットに変わってしまう。
「ニッポンのためにタタカエ!」
あきお君はロボットになってしまい、空襲下の生活でも悲しくもなく、涙も出ない。「ニッポンは勝つノダ!ガマンしろ!」。命令された通りに土にまみれ、仕事をこなした。
そして終戦。すると、ロボットの体があきお君からはがれ落ち、「悔しい、悲しい、情けない」という気持ちに。「言われた通りに何も考えずに動いたほうが簡単」と思いながらも、「自分の心や気持ちを大切にしよう」と思い直す。「どんな理由でも勝手に奪っていい命なんてありません」
その後、あきお君は学校の先生になる。「たくさん本を読んでください。そして自分の頭で考えられる人になってください」と呼びかけ、締めくくっている。
話を聞いた元保育士は…
主人公のモデルとなったのは、佐藤明夫さん(93)=愛知県半田市在住。元高校教諭で、主催する市民団体で長年、空襲被害などの実態を掘り起こす活動を続け、戦争記録集も出版している。
一昨年11月、半田市内であった戦争の体験会を聞く集まりで、「軍国少年」だった頃の佐藤さんの話を聞いた半田市の元保育士有留(ありどめ)麻由(まゆ)さん(50)が興味を持った。「軍国少年の話は少なく、後世に残さないといけないと思った。まず子どもたちに伝えたいと考えた」と絵本にして出すことを思い立った。文を有留さんが書き、地元のイラストレーターささきめぐみさんが絵を描いた。
A4判カラー20ページ。昨年5月に自費出版した。これまでに愛知県内外から約500部の注文が寄せられた。
さらに、若い層にもっとアピールしようと、絵本を紙芝居のようにして見せ、効果音もつけて、今年春、ユーチューブで発信した。
自分で考え、判断する大事さ
一方、佐藤さん。当時を「子どもたちは洗脳され、ロボットのようになってしまうのが当たり前。そうでないと生きていけないといけない時代だった」と振り返る。その体験が戦争への怒りとなり、後に戦争を記録する活動につながったという。
絵本については「大勢の人が読んでくれていると知り、うれしく思う。戦争の持つ色んな側面のうち、国による教育が暴走するとどうなるか、その影響力の強さについて知ってもらえれば」と話す。
半田市議でもある有留さんは、SNSで一斉に同じ方向へ世論が形成されていく現在の風潮にも触れつつ、「戦争を起こさないためにはどうするか。色々な情報がある中で、自分で正しいかどうか考えて、自分で判断することが大事だ。佐藤さんの体験はそのことを教えてくれる」と話した。
絵本は1冊500円で別途送料が必要。申し込みはメール([email protected])へ。(臼井昭仁)